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2009.10.30 Fri l 未分類 l COM(1) TB(0) l top ▲

Opas.0⇔ANOTHER、武装天使ローゼンクロイツ!



私は貴方の意見には反対だ。
しかし、貴方がそれを言う権利を、私は命にかけて守る。
~ヴォルテール





「…無線の状況はどう、澤田軍曹?」
「いや、駄目っすね…こう、妨害電波der Storungが強いと」
 旧式無線のトグルスイッチを押す伍長の指は、硝煙で黒く塗装されている。世界の全てが硝煙に包まれた今となっては、無垢でいられる訳はないのだけれど。

「向こうも同じ無線網を使っている筈だけど、性能が違い過ぎるわね」
「そうっすね…
ッ!公子師範!無線に感有り!敵からの直接通信です!」
「…スピーカーに繋いで」
 ノイズ混じりの通信の中から、機械的な声が聞こえて来る。いつ聞いても、心が感じられない、おぞましい声だ。

「コール・グラッツェ全戦闘員ニ告グ。
既ニ当方戦力ハ基地機能ノ72%を制圧。コレ以上ノ抵抗ハ無意味デアル!
1700時マデニ武装解除・降伏セヨ!繰リ返ス、1700時マデニ降伏セヨ!」

「…師範、どうしますか?」
「馬鹿め…」
「は?」
「馬鹿め、と言ってやりなさい」
「了解。敵部隊に返信。
馬鹿め。繰り返す、馬鹿め」
 突然、スピーカーから『落葉松』が流れ出した。奴等は私達が疲弊しきっているのをちゃんと解っている。こんな時、暗い曲よりも穏やかな曲の方が、戦意を挫くには効果的である事も。

「軍曹、コンダクターチームからの応答は?」
「1500時から依然として交信途絶。
敵戦力と交戦状態に有ると思われます!」
「彼等が最後の部隊das letzte Bataillon…
彼等が敗れたら、グラッツェを守る部隊はもう無いわ」
「前線指揮の佐藤司令は歴戦の指揮者です、必ず勝ってくれますよ!」
「そうね…軍曹、受信を続けて下さい。私は救護室へ戻ります」
「了解、お気を付けて!」
 AK477.62mm突撃銃の弾倉を確かめながら、私は答える。
「ありがとう、澤田。最後まで諦めては駄目よ…!」
 私は、第二通信室を後にした。


「隊長、司令部ヨリ伝令!」
「内容ハ?」
「第二作戦指令室付近デノ戦闘ハ膠着状態。
敵主力部隊『コンダクターチーム』ノ抵抗激シク作戦進行ニ支障アリ。
貴下ノ部隊ハ速ヤカニ前進、戦闘員・非戦闘員ヲ問ワズ捕虜トセヨ」
「フン…勝手ナ事ヲ!
人質ヲ確保シテ帳尻ヲ合ワセル等…無能ノ至リダ」
「シカシ、司令部命令デアリマス故…」
「解ッテイル。
同志大尉、前進ヲ再開スル。索敵ヲ先行サセ給エ」
「了解!Ja,wohl」


「くっ…なんて隙の無い援護陣形die luckenlose Formation…!
ここを突破しなければ救護室にはたどり着けないのに…!」

 私は壁に背中を預けている。すぐ近くの壁を抉って銃弾が飛び去って行く。塵と銃声がこの廊下の支配者だ。
 掃射が止んだ拍間を逃さず、銃身だけを防壁から出させ、すかさずトランペットAK47カラシニコフを吹き返す。着弾した気配はない。

 姿は見えないが、足音と銃声で解る。敵は三名一班…正確な援護射撃の下、確実に私のいる廊下の角に接近しつつある。素早く三歩、ゆっくりと一歩、そして力強く一歩。
 プロは奇をてらわない。為すべき事を確実にこなすのだ。

「残存火器は弾倉が二個とパイナップルMk・手榴弾が一個…」
 再び艦砲射撃が火蓋を切った。スコールの様に弾丸が降り注ぐ。何とかしてこの袋小路を脱出しないと…!


「ナカナカノ手練レダッタガ、ココガ貴様ノ墓場ダナ…」
 支援砲火を担当するヤナーチェクの射線状に入らない様、注意深く進みながら思う。俺達はチームだ。無敵のモテット野郎Mチーム。誰もこのコンビネーションは破れない。

 俺の5m前を蝸牛の様な速度で進むデュファイの背中が笑っている。奴の悪い癖だ。狩りを楽しんでいる…人間狩りという究極の悦楽を。

「待テ、デュファイ。命令ハ敵兵ノ捕獲ダ。殲滅デハナイ」
「ヘーイ、バード!死体ヲ改造スレバ同ジダロ?殺ッチマオウゼェェェ!」
「ソウ我ガ儘ヲ言ウナ。マダ機会ハ十分アルサ」
「オ前ハ黙ッテ照準覗イテ興奮シテリャイインダヨ、弱虫ヤナーチェク!」
 やれやれだぜ…いつもの事だが。さて、仕事を片付けるとするか。帰ってボルチーニ茸がたっぷり乗ったピッツァを喰う為に。

「ソコノ貴様!聞コエテイルナ?
30秒待ツ。武器ヲ捨テテ投降シロ」
 素直に来る馬鹿はない。
「ヤナーチェク!直接支援砲火、準備Bereite die Direktunterstutzung vor.」
「了解Ja」
「残リ10秒………drei…zwei…ein……null」
 時間だ。手信号でデュファイに手榴弾使用を許可した。乾いた音を立てて鋼索ピンが抜かれ、宙を舞った死の果実が二、三度バウンドして曲り角の向こう側に消えるのを見つめる。
 選択肢は二つ。爆圧で挽肉と化すか、物陰から飛び出して蜂の巣…いや、恐らくは前者と同じく挽肉と化す事だろう。
 最後の特攻を仕掛けて来る事は十分に予想出来た。筋肉をリラックスさせ、骨格でMP5K-PDW9mmパラべラム軽機関銃を支えて、飛び出して来るであろう敵に備えた。

 瞬間的に本能が銃爪を引いた。調律済みの脳に浮かび上がる敵のシルエット。一瞬遅れて爆炎が壁を焦がす。廊下は騒音に満ちている筈だが、何も聞こえては来ない。薬莢がコンクリートに落下して、いびつな鎮魂曲を奏でる中、9mmパラの一斉掃射を全身で受け止めて、糸の切れた人形の様に敵は崩れ落ちた。

「ヘヘヘ…アッケネェゼェ!モウ少シ楽シマセテクレリャ良イノニヨ!」
「デュファイ!無駄口ハ其処マデニシテ確認シロ」
「了ォ~解!」
 おどけた声で返事をし、デュファイが骸に近付いて行く。おどけてはいるが、その歩みは見事なまでの戦士の歩みだ。視線を固定させる事無く、常に広い視野を保ちながら進んでいく。草食動物の視界を得た肉食獣だ。
 ヤナーチェクに後方確認を任せ、俺もデュファイの後に続こうとした、その時だった。

「バード!ヤナーチェク!来テクレ!緊急事態!」

「何ガアッタ!?明確ニ状況ヲ報告シロ!」
「解ラナイカラ喚ンデルンジャネェカ!早ク来テ自分ノ目デ見テミロ!」
 奇妙に怯えた様な前衛デュファイの声。俺とヤナーチェクは周囲に気を配りながら、骸の傍に立つデュファイに近付いた。

 そして俺達は見た。有り得ない光景を。
「…!!!
馬鹿ナ…死体ガ消エテ…代ワリニ在ル、コレハ…!
『激レア!地球戦隊ファイブマン
 ファイブピンク限定フィギュア』!?

 有り得ない。苦悶の形相で横たわる筈の遺体は消失していた。目の前に在るのは小さいペットボトル位のフィギュアが一つ。


「…まだまだね、アナタ達。
それ、『空蝉の術』って言うのよ。覚えておきなさい」

「!?」
 俺は咄嗟に頭上を見上げようとした。

 しかし、俺の眼に映ったのは何億もの薔薇の花弁だった。

 新雪の様な純白と共に、柔らかな声が降り注ぐ。

「アレクサンダー流陰殺術、乱れ花霞der Rosensturm…!」

 突如、薔薇の香気が、烈風となって俺達を包み込んだ。
「グッ…カ、身体ガ痺レル…!?」
「フ…風下に立ったのがアナタ達の不覚ね・」
「ッテ…テユーカ…『変ワリ身ノ術』ッテ…ソウイウ物ジャナクナイ…?」

 戦闘員達は、どさりと地に倒れ伏した。一様に、規則正しい寝息を立てながら。
天井に私を吊り上げていた単分子ワイヤーを解除し、床へぴたりと降り立つ。

「命までは奪わないわ…私、看護婦の端くれですもの」

 とは言え、巨象すら七時間は昏睡させる調合だから、心配はいらないだろう。念の為に武装解除して、拘束しておく。

「さて…救護室に急がないと。
あ!忘れる所だったわ、危ない危ない・」

 激レアフィギュアを回収し、私は救護室へと駆け去った。




「議長、サブドミナント内に潜入した栗坊からの経過報告です。

1330時、帝國先遣部隊はグラッツェ前線基地サブドミナントに侵入。
同刻、グラッツェ指揮者戦隊、通称コンダクターVが迎撃の為、出撃。
1500時現在、戦闘は継続中なるも、コール・グラッツェ劣勢なり。
主要設備が陥落し、降伏は時間の問題。

以上です」

「マンマミーヤ…了解した」
 掌の上で、一対の金属球を転がしながら、恰幅の良いその男は答えた。金属球…正確に表記するならば、キノコ型の金属塊を弄ぶ男ー合唱連盟議長マリオ=ジュンジーノーが、佇む影に言葉をかけた。

「19年ぶりだな」
「ああ…間違いない。イ=セシマだ」
「余裕の訳は?やはり…彼等かね?」
「特務部隊CUPPAを出動させておいてよく言う…『配管工』…!」

 唇の端を歪めてジュンジーノが笑う。経済の救世主として雑誌の表紙を飾る時とは、まるで異なる容貌で。
「フフフ…『委員会』の年寄り共が五月蝿くてね。
パンフレットにない曲目を暗黒空間の墓地ディラックの海に埋葬したがっているのさ」

「無駄な事を。既に開演ベルは鳴った。スケジュールに変更は無い」
「それはどうかな…?『窮鼠猫を噛む』と、この国では言うのだろう?」

 無言で立ち去る影。一瞥をくれただけで、議長も沈黙を守り、部屋は再び通常空間と化した。
「さて…黒か白か。実に興味深く…くだらない遊戯だな、これは」




「公子師範!御無事で何よりです!」
「貴方達こそ、良く頑張ったわね」

 後輩達に敬礼を返す。この第三会議室ー今は、緊急措置で救護室として使っているーは、主戦場から離れた位置にあるのと、団員でも時々迷う者が出るくらい入り組んだ区画に在るという理由から、帝國の襲撃を逃れていた。しかし、所詮は砂上の楼閣。残された時間を考えると、ネガティブな感情に溺れてしまいたい。

「…師範、戦況は…?」
「芳しくないわ。Nicht gut.脱出しか選択の余地はないわね」
 敢えて現実を彼等の前に突き付ける事にした。一瞬、ほんの一瞬だけ心が痛むが、私は冷静でいる事が出来た。これが歳を取ると言う事か。

「私達だけおめおめと逃げろというんですか!?」
「後藤軍曹、今私達が必要としているのは議論ではないのよ」
「しかし、師範!」

 掴み掛からんばかりの勢いで食って掛かる後輩を、手で制した。
「周りを見なさい、軍曹」

 部屋は負傷者で溢れていた。

「明確に言う。この基地はもう終わり。
けれど、私達は生きなければならない。地獄の様な明日だとしても。
そして、一つでも多くの希望を繋ぐのは上級生の使命よ。
…………………………………………………………………。
話は終わり。脱出の準備をする、各パートに指示を出しなさい」

「…了解。解った様な事を言って申し訳在りませんでした」
 くすりと笑って私は言う。
「気にしないで。さあ、早く準備しないと、今年の反省会…厳しくなっちゃうわよ・」
「はい!」
 ぱぁっと輝く後輩の笑顔に私自身救われる思いがした。


 しかし、問題が一つある。
「師範、この救護室の人員で戦闘に耐え得るのは三名しかおりません…!」

 十数名に及ぶ負傷者を守りながら搬出しなければならない。脱出ルートを確保する為の斥候der Vorsangerも必要だ。その人員を割く余裕が、無い。
 ならば、答えは一つ。

「私が囮になります。その隙に脱出しなさい」

「師範!その命令は聞けません!」
「議論する暇はないと言った筈よ、宮西伍長」
「しかし、それは自殺行為っす!」
「私は死なないわDer Tod mag mich nicht leiden.、貴方達も死なせない。これしか方法はないのよ」
「嫌っす!俺も戦います!」

 興奮と不安が絡み合った空気が部屋に染み通っていった。負傷者や看病をする団員の表情筋が下がる。良くない傾向だ…今こそ団員には冷静さが必要なのに…!

 そうした緊張感が破裂しそうになった時だった。聞き慣れた声が聞こえて来たのは。


「これくらいで狼狽えちゃいけないよ、諸君。
海の向こうじゃこれ位の危機…日常茶飯事だぜ」

「あ、貴方は!
『マレーの虎』!トニー隊長!」

 扉の傍に何時からか立っていた影がふらりと揺れた。飄々とした存在感。紛れもなく、グラッツェ守備部隊八番隊隊長、トニー先輩だった。
「よぉ、公ちゃん。久し振りだね」
「トニー先輩!マレーシア支部で活動中の先輩が何故、ここに?」

 にやりと笑うとー相変わらず独特な笑みだー私の問いには答えず、彼は一枚の地図を取り出して、ペンで或る経路を辿り始めた。

「これが脱出経路だ。来る途中で確認して来た」
「『マレーの虎』、面目躍如ですね」
 虎が再び笑みを返す。
「おっ、言う様になったねぇ『お母さんdie Mutter』?」
「その呼び名は止めて下さいって何度も言ってるじゃないですか!」
「へへ…ま、それは置いといてだ…」
 急に真剣な表情。変わり身の早さも昔のままだ。
「このルートは連中の想定にはない。この区間は奴等の地図に載っていない緊急脱出経路だからだ…」

 先輩がルートを説明する間、私の心は別の事に移調していた。この気持ちは何だろう?目に見えない不安が大地から足の裏を伝わって、私の心に確かな残滓を残す。何かが気掛かりなのに、それが何なのか解らない。

「おいおい、公ちゃん。聞いててくれないと困るなぁ」

 突然掛けられた声によって私の夢想は遮断された。
「あっ…すみません先輩!」
「今や君も先輩だ。先輩同士頑張ろうよ。ん?」
「はい!」

「さて、では師範。君には通信室に待機している兵員の誘導をお願いしたい。
その間に、僕はこの部屋の人員を連れて、地図のこの部分『防壁』前に移動。そこで君達を待つ。
君達と脱出した後に『防壁』を作動させ、追撃を阻む事にする…良いかい?」
「了解しました」
「集合時間は現時刻より30分後…1630時とする。
総員、時計合わせ用意。drei…zwei…ein…null!
『信長』作戦die Operation"NOBUNAGA"を開始する。各員、武運を祈る…!」
「了解!」
「負傷者で歩ける者は自分の足で歩け!担架は重傷者だけに使用しろ!」
「銃器点検を!弾薬は少ない、無駄弾を撃たない様に!」

 後輩達が指示を飛ばし始める。私も出撃の時だ。AK-47と共に部屋を出ようとした時、虎が声を掛けた。
「何があっても戻って来いよ、公ちゃん。君は必要な人間だ」




「合言葉を」
「…クソゲーかよ!」

 かちりと音がして、電子錠が解ける。ドアを開いて中に入る時も、油断はできない。
「キレのあるツッコミ…さすが師範っすね」
「話は後。脱出するわよ、澤田。通信隊員アルトの人々を集めなさい」
「了解」




「初めましてっす。トニーさんのお噂はかねがね伺ってるっす!」
「ああ、そうなんだ。えぇと…宮西君だっけ?」
「はい!TE-TSUと呼んで下さいっす」
「へぇ~…そろそろ『防壁』だ」
「ここまで落伍者も出さずに来れたのは先輩方のおかげっす!有難うございます」
「礼を言うのはまだ早いよ。
それに僕も君達がいなければ、ここに来る意味がなかったしね…」
「?」
「着いたぞ、『防壁』だ」

 視界を遮る黒い鋼の壁が、そこに在った。おもむろに虎と呼ばれるテノールは、壁の或る部分に歩み寄った。数十トンはあろうその壁の右隅、ちょうど踝くらいの所に手にした歩兵用短剣das Bajonettを突き立てて、ぐいとこじる。
 からんと乾いた音を立てて巧妙に偽装されていたカバーがはずれ、中のパネルが現れた。

「このパネルは何処の回路とも接続していない、スタンドアローンな構造だ。
例え奴等が指揮台中央指令室を制圧したとしても、このクソ重たい扉はこの基盤でしか作動させる事はできないのさ」
「へぇ~!」
「それにこの壁はチョバムプレートを遥かに上回る耐久力を誇る。
工学部隊で開発が進められているという密集和音砲ですらコイツを破壊するのは容易じゃない」
「へぇ~っす!さすがトニーさんっす!」

 最近、「へぇ~」が多い。気のせいか。

「まあね…ところでTE-TSU、拳銃貸してくれないかな?僕のは弾切れでね」
「いいっすけど。どうぞ」
「へぇ~…よく使い込んだFNハイパワー40 S&Wハンドガンだね」
「それほどでもないっす。ところで、何に使うんですか?」
「ああ。こうするのさ」

 銃声は三発続いた。




「…ッ!」
「どうしました、師範?」
「今、宮西伍長の声が聞こえなかった…?」
「いえ、自分には何も」
「そう…急ぎましょう、合流地点はもうすぐよ」

 アルトの新入生達の表情に、濃厚な疲弊が現れている。休ませてあげよう。この戦いが終わったら。
 ふと、そんな事を思っていた。

「…止まりなさい、澤田」
「どうしたんです、師範?」
「次の角を曲った防壁の前には友軍が、脱出を試みる仲間達がいる筈。
でも、静かすぎる…演奏前の舞台袖でも無駄話をするグラッツェにしては…!」
「師範…!」

 安全装置を外し、薬室に弾丸を送り込む。
「私が行くわ」
 後輩に抗議する間も与えず、私は闇に同化した。


 行く道は漆黒の帳が幾重にも垂れ込めていた。忍びの修行の中で、私が最も苦手だったのは闇闘法、即ち夜間隠密殺だ。こればかりは弟弟子ー年齢は私より上だがーのハスター師範代が上を行く。師匠に言わせれば、私は闇の向こう側を見ようとしているのが良くないと言う事だが。

ー公子…これは大事な物の考え方じゃぞ!
 『もし自分が敵なら』と相手の立場に身を置く思考!

 師匠、アレクサンダー=タケハシ=シュトロハイム男爵の声が脳裏に響いた。

「…左!」

 左から何かが来た。私は最小半径の動作でそれを躱す。闇の中で大袈裟に立ち回れば、自らの座標を失する恐れが在る。
 銃床で敵と思しき影を薙ぎ払った。確かな手応え。今夜も逆転ホームラン間違い無しや。

 次の瞬間、何故か、照明が作動した・・・・・・・・・・・。

「あ、貴方は!
『福井の和尚』!宮西伍長!」

 短く刈り上げた頭部。そしてジャージ。紛れもなく『坊主オブ坊主』、TE-TSUだ。
「GRURURURU…!」

 しかし、何かが違う。決定的に。微笑みの消えた表情が。E♭で咆哮を上げる野性が。
正気を失い、赤熱するその眼光が。

「しっかりなさい、TE-TSU!何があったの!?」

 呼び掛けに応答無し。伍長は短剣を抜きつれた。
「…しばらく床屋に行かなかった住職の様に…
青々とした坊主にしてから…
お前の後頭部を…あぁぁ刈り上げてやるっす!」

 最早、理性など存在しなかった。そこにいたのは鬼と化した一人いちにんの坊主。

「こ、これは一体…!?」



「…彼を責めないでやって欲しいな。
真に責められるべきは、今日の結果を予見しながら具体策を出さなかった組織全体だよ」

「トニー先輩…?」

 壁にもたれて立つ男は、低いトーンで語り出した。
「ある意味では、僕は彼を救ったと言える。不本意ながらね」

「…何故です?」

「池島さんが帝國に寝返った・・・・・・・・・・・・」
「!」
「今回の侵攻が電撃的に行われたのはそのせいさ。
そして、奴はその功績を元に岡崎にマニアの楽園を築く勅許を得る気だ」
「そんな…羨ましい…じゃなくて無茶苦茶な!」

 虎と呼ばれた男の眼は、氷みたいな色をしていた。
「僕の故郷が、岡崎がピンチなんだよ」

 そう言うと、虎は壁から背中を離し、完璧な自然体で立った。いつ取り出したのか、その手に石の仮面をあしらった腕輪を持ちながら。

「僕は人間をやめるよ…公ちゃん」

 左腕に腕輪を装着すると同時に、虎の両腕が胸の前で十字に交差する。次の瞬間、豊かなテノールの咆哮が大気を圧倒した。

「オォカァザァキィィィ!!!」

 歴戦の元テナーパトリが十字に組んだ両腕を開いたその時、私の眼は、動脈の様にうねる腕輪を見た。仮面の口から伸びたイソギンチャクの様な触手が、腕から胸へ絡み付き、そして全身を覆い尽していく…!


「帰るべき地を失う悲しみ…君は解ってくれるよな」


ー家は…学校は…どこ?
 どこへ帰ればいいの…ねぇ、公ちゃん…?


「………………」
「という訳で申し訳ないが、時間が無いんでね………お命、頂戴する…!」

 地を蹴ると同時に、かつての先輩だった男ー今や、蒼鉛色の甲虫に似た形態に化しているーが、右ストレートを放つ。迅雷の様な激突音が孤独な回廊に木霊した。

「何…!俺の鉄拳みぎを…止めるとは!」

 十字交叉防御クロスアームドブロックで、打撃を止め、うつむきながら私は答える。

「信じてくれた者達の屍を踏みにじってまで…得るべき、否、手に入れて良い故郷ものなどありません…!」

 瞬時に、戦車の様な突進力で押して来る拳を利用して、後方に跳ねる。そして、私は懐から限定フィギュアを取り出して足下に置いた。


「タケハシ一族われらをものに例えるならば!
人も捜さぬ棚奥に……………
置いたゾックMSM-10のガンプラの心意気!」

 転瞬。手刀が足下のフィギュアに炸裂した。


「瞬着!!!」


 回廊は紅蓮の閃光に包まれた。フィギュアだったもの・・・・・・・・・・は、灼けた鉄の様に溶け、足下から私の身体を伝い昇りながら、防具と化して身を覆っていく。凝固した部分が、淡い桜色に輝いて、胸部装甲ブレストプレートの紅十字と微妙な対比を成している。

「成程…精神感応金属オリハルコンか…
例の装備開発計画は、試作だけで終わったと聞いていた。
君だったのか、『三河式強化外骨格試作丙型』の実験着装者というのは…!」


「フ…」
「何が可笑しい」


「これはそんなもの・・・・・じゃないわ…
これは魂こころの攻性防壁…
今から貴方を屠ほふる、我が魂の…慟哭よ!」

「一体………君は何だ・・・・…?」

 私は応える。三連装爆芯靴ナースシューズを戛かつと踏み鳴らして。

「闇に生まれ、闇に死す…
これぞ忍びの掟なり…
なれど、一度ひとたび受けしこの命、
咲いて散らすは人の為…!
武装天使ローゼンクロイツ………
推参!!!」





Fortsetzung folgt…!
2009.09.20 Sun l 未分類 l COM(0) TB(1) l top ▲
狂気が支配する虹色の虚空の中、二体の天使が対峙していた。
 白き武装天使“天使王”メタトロン。
 黒き破壊天使“堕天使”サンダルフォン。
 其の闘いは終に、此処で終わりの始まりを告げようとしていた。
 漆黒のフレアを放ちながら破壊天使が奔る。
 青白いフレアを輝かせて武装天使が翔る。

「サンダルフォォォォンン!」
「メタトロォォォォォンン!」

 メタトロンの、ライカのビームセイバーが閃く、其れをサンダルフォンが、リューガが腕で受け止め受け流す。

「餓アァァァァァァァァァァッ!!」

 リューガが天地陰陽の構えを取る、周りの字祷子(アザトース)がリューガの咆吼と共に黒く凝縮され、漆黒の光と化す。

「ライカァァァッ! 貴様を、貴様を斃せば己(オレ)は、更なる高みに立てる! 己の贄と為れ! 御前が己を! 己を駆り立てるのだからなァァァァァッ!」

 そして、嵐の如く拳が放たれる、其れは正に魔速。
 ライカは其れを受け流しながら反撃の機会を待つ、が――

「邪アァァァァァァッ!」

 神をも凌駕する蹴りがライカを襲う、龍尾脚、飛燕脚、連環腿。
 字祷子を纏い、空間を爆砕しながら必滅の蹴撃がライカを襲う。

「あ、あああっ、くぅっ!」

 戦闘回路に軽微な損傷、、頭部装甲欠損、腹部装甲クラック……
 ライカは其のチェックを無視して戦闘回路をフルブーストさせる。
 魔力付加回路出力100%、敵対象沈黙迄現状維持。
 術式を解凍、全魔導兵器安全装置解除。

「――其処迄よ」

 十字の光が疾った。

「ヘブンズ・セイバー天帝神罰剣。十字・断罪(スラッシュ・クロス)!」

 白い闇が奔る、サンダルフォンの動体視力を超えるスピードで背後へと通過するメタトロン。
 擦れ違い様にビームセイバー二刀流に拠る斬撃を放つ。
 刹那、異形の空を異形なモノの真っ赤な鮮血が噴出す様にして朱に染める。

「ライカ、己を殺して未だ殺し足りないのか! ふぅ、ハハハハハハッ! 矢張り貴様は大罪人だ、ライカ!」
「御前を殺して仕舞ったのは私の罪、御前を此の様な狂気の淵に住まわせて仕舞ったのは私の咎……」
「ハハハハハッ!貴様の罪を認めるのだな、メタト……」
「――リューガ……否、サンダルフォン。殺してあげる……今度こそ、確実に、完全に、殺してあげる」
「……ライカ姉さん」
「其れが償いなんて云う心算は無い……! でも、貴方の罪は私が背負う! 貴方には――罪を背負い、生きる資格も無い!」
「フフフッ、クハハハハハッ、コイツは良い、何を言い出すかと思いきや結局の処自分の罪を棚上げして己を殺すと云うのだな、良いだろう、さあ、殺し愛いを始めようじゃないか。ライカ姉さん」

 サンダルフォンが天地陰陽の構えを取る、メタトロンは無為の構えで相対する。

「轟ォォォォォォォォッ!」

 サンダルフォンが迅る、そして総てを粉砕する拳をメタトロンに見舞った。
 が、メタトロンは其れを寸毫の差で躱し、サンダルフォンを抱き寄せる。
 まるで幼子を書き抱く母の様に。
 メタトロンの左右腕部、肩部、胸部、頭部、脚部。
 そしてサンダルフォンを包み込む様に翼部も展開。
 サンダルフォンを中心に大小様々の銃身が顕現する。

「天帝神罰砲――十字・浄火(クロス・ファイア)」

 咆吼(ファイア)。
 メタトロンとサンダルフォンの躰が光に包まれる。
 光に溶ける。
 光に焔える。
 光に崩れる。
 光は一点に集中し、爆発。
 異形の虚空に白い闇が顕われる。
 装甲を破壊され堕ちて行くサンダルフォン。
 其れを追うメタトロン。
 が、サンダルフォンが静かに拳を突き出す、其れは今迄と違って凪の様に穏やかな拳。
 だが、其の一撃は意を乗せられライカを襲う。
 ライカの仮面が砕けた。
 リューガの仮面も先程の攻撃で壊れていて、其の素顔が曝け出されている。
 リューガの顔はとても穏やかな表情をしていた。

「メタトロン、否、ライカ姉さん。今日こそ己は貴女を超えてみせる」
「……リューガ?」
「貴女が居なくなれば己は自由に為れる。ライカ・クルセイドと云う白い牢獄から解き放たれるのだ」
「白い牢獄? ……私がリューガの牢獄? 其れって一体……」

 其の言葉にライカは驚愕し、得体の知れない恐怖に身を震わせた。

「リューガ……私は貴方にとって枷でしか無かったの?」

 ライカは思いを巡らせていた。

(何処で間違って仕舞ったのだろう)
(リューガが此の狂気に冒されたのは、何時からなのだろう? 私がリューガを殺してしまった時からか――否……)

 ライカは気付いて仕舞った。
 否、気付いていて目を逸らし、逃げていたのだ。

 彼の日、リューガを殺して仕舞った彼の日からリューガは狂気に囚われたと思い込んでいたかった、目の前に居るのは狂気と妄執に捉われたリューガの亡骸に取り付いた怨霊。
 其れがリューガを操っていると思っていたかった。
 そうすれば過去は汚されず、己の運命の残酷さを呪うだけで済んだだろう。
 だが、リューガの狂気は違う。
 日々積み重ねて来た想い其の物がリューガの狂気。
 だが、ライカは其れを否定した、そうしなければ其の罪の重さに耐え切れなかった。
 罪から逃れ得ないと嘯きながら、一番肝心な罪から逃げていたのだから。
 ――そう、ライカにとって彼の白い施設が余りにも清潔過ぎて、気が狂いそうに為る程の牢獄だった様に。
 ――リューガにとっては私こそが白い牢獄だったのだと。
 リューガは驚いた様な、困った様な、無防備な少年の表情でライカを見詰めた。
 其処に狂気は無かった。
 リューガは問い掛けには答えずそっと瞳を閉じ、再び見開いた。
 其の瞳は冥い深淵を湛えながら何処迄も清浄で有った。

「己はライカ以外の世界を識らなかった、知る必要も無かったし知りたくも無かった」
「……」

 穏やかでいて世界を侵食する狂気が告げる。
 リューガの独白は続いた。

「そうさ、己は誰よりも未知に恐怖していた。だけど、其れすら知らずに済ませてきた……だから姉さん、貴女が己にとって未知の存在に為った時……己には為す術が無かった。恐れ、怯え、泣いて、憎んで辿り着いた境地が唯壊すことだった。己は其れしか識らなかったから」

 リューガは天地陰陽の構えを静かに取った。
 激しい憎悪も殺意も今は消え失せていた。
 唯其処に在るのは純粋で透明な狂気。
 リューガが今迄誰にも気付かせなかった凪の海の様な狂気である。
 リューガの口元が嗜虐と自虐に歪んだ。

「ライカ姉さん、此れが貴女が識らなかった狂気。貴女が知ろうとしなかった己自身の狂気だ」
「リューガ……」

 ライカは躊躇いながらも構えを取る。

「嗚呼、そうか……」

 リューガが妙にさっぱりとした口調で呟いた。

「どうして空に行きたかったのかが解ったような気がする。青空にはね、何も無いんだ。ぼくを脅かすモノが、何も」

 ライカは哀しかった、リューガの口調は彼の昔の頃のリューガだった。
 二人は静かに空を翔け上がって征く。
 ――何も無い青空へ。
 翔け上がりながら互いに闘気を極限迄高め、更に其れを超えて行く。
 ……次の一撃で一切合切にケリが付くであろう。
 ライカは想う、リューガに罪は無い。
 其の罪は私から生まれ出て来たモノ。
 其れを償いたいと思った、リューガに討たれても仕方ないと。
 が、今と為っては其れは出来ない事である。
 其れはリューガに討たれ、己の死で贖う事である、今のライカには輝かしく護りたい物が有る、護りたい人達が居る。
 コリン、ジョージ、アリスン……そして何よりも大切で私の心の光。
 大十字九郎。
 今は彼の神々の狂気と無秩序と理不尽が満ち溢れた門の先で戦っている大好きな人。
 私に生きる楽しさを教えてくれた、そして忌まわしき運命から、クトゥルーの胎内から救い出してくれた愛しい人。
 九郎ちゃんが此の胸の中に在る限り、負ける訳にはいけない……
 其れはやっとの思いで手に入れたちっぽけな倖せ。
 其れは何処にでも有る有り触れた日常、だけど私にとっては掛替えの無い大切な物。
 其れを守る為ならたった一人の肉親を手にかけたとしても。
 私は生きる、リューガ、貴方を殺して、其の新たな罪を背負って生きる……
 其れで仮令地獄に堕ちたとしても。
 其れが私に出来るたった一つの贖罪なのだから。
 白い煌めきが神速で翔る。
 黒い極光が魔速で迫る。
 武装天使が、破壊天使が虚空で交差した。
 ――勝負は刹那、一撃で決した。
 ライカの装甲は砕け、白い柔肌が晒された、唯其れだけである。
 ――リューガは一瞬動きを止めた、そして胴体にザックリとつけられた傷から夥しい鮮血を噴出しながらルルイエの海へと堕ちて行く。


「リューガ!」

 ライカは無意識の内に虚空を翔けていた、そしてリューガを抱き留める。
 仮令、偽善だと云われても良い、最後の最後でライカはリューガの最後を看取りたかった。
 リューガは目を開けるとにこやかにライカに笑い掛けた。

「嗚呼、姉さん。今日は綺麗に晴れてるね、そうだ、今日は彼の子達と一緒に空に出掛けようよ」
「うん、そうだね、リューガ」

 涙を堪えてライカはリューガに微笑んだ。

「そう云えば彼の紙飛行機、ぼくのがいちばんとおくにとんでいった……」

 そうやって話すリューガは昔のリューガであった。

「うん、叉作ってね……」
「ああ、そらはあおくてたかくてなにもない。ぼくがつれていってあげるよ、ライカ」

 そう言ってライカの顔を見詰めて瞳を閉じた、ライカはリューガに呟く。

「ええ、目が覚めたら、連れて行って……だから今は御休みなさい」

 其れを聞いたリューガは安心した様に目を閉じて……
 再び見開いた。

「姉さん――姉さんの優しさで己の狂気を……! 汚すなァァァァッ!」

 リューガはライカを蹴り飛ばした、凪の狂気に捉われたままで。

「リューガーーーーァッ!?」
「姉さんは不様に地べたを這って生きて行くが良いさ、己は彼の空に漸く……」

 そしてリューガはライカから離れ、其の侭ルルイエの海に鮮血の雨を降らせながら黒い粒子となって虚空に堕ちながら消えて行った。
 其の手を蒼い空に伸ばし、掴もうとしながら。

 ライカは其れを唯見詰めるしかなかった、そして悲しみを胸に仕舞いながら呟いた。

「リューガ、人は空では死ねないよ……解っていたんだろう?」

 ライカは弔う様に瞳を閉じた。
 頬に一筋の涙が伝った。



 ――ライカは合流地点へと向かった、合流地点にはDr.ウェストとエルザが操縦する破壊ロボ、ゾンバイオが待っていた。

「終わったのであるか?」
「ええ、終わりました。ドクター」
「ふむ、我輩としては掛ける言葉もないので有るのだが……で、此れから貴様は如何する積もりであるか? メタトロン」
「九郎ちゃんを追い掛け様と思ってます」
「ふむ、だが彼の門の先は邪悪な神々の大理不尽が待っておる、其の先をどうやって行く積もりで有るか? 我輩としては其処の処を重箱の隅をまるで粘着テープで掃除するが如く、メタトロン、貴様に訊きたいのであ~るよ、さあさあ、キリキリ白状すれば罪は軽いのであ~る。最低、終身刑、悪くても死刑位な勢いで!」

 そして徐に六弦式生命電気発生気『がんばれオルゴン』(以下ギター)を掻き鳴らす。

「博士、煩いロボ」

 そして、エルザに延し烏賊にされる。

「エェ~~~ルズゥワァ! 此の畏るべき、天才の頭脳を何と心得ておるのであ~~るかっ!」
「唯のヘンタイロボ」

 ガガァ~ァンと云う擬音と共に滂沱の涙と共に泣き崩れるウェスト。
 何時もながら本題に入るのは何時のことだろうか……
 ライカは呆れながら話題を切り出した

「ドクター、そう云うのなら何かしら手は有るのですか?」
「当たり前だのニールキック! 序でに回り過ぎてリングアウトになる勢いであ~るよ! テンカウントで戻ればリングアウト負けも無いのであ~る!」

 そしてギターを掻き鳴らす、ギュ・ギュィギョ~ン!!

「其処な覇道の船に貴様への最後の手向けがあ~る! 黙って付いてくるのであ~るよ!」

 手向けって――確かに死地に赴く訳では有るけれどむざむざ死にに行く訳ではない。
 其処の処を此の闘いが終わったらキッチリ型を嵌めて於かないとと考えるライカであった。
 そして、船の上に降り立つ、なにやら白いカバーが掛けられた物体が甲板に置かれていた。

「エルザ、オープンザゴーダムなのであ~る!」
「了解ロボ、博士」

 そしてウェストはギターを演奏し始める、其のリフワークはK.Kやグレンが裸足で逃げ出しそうな勢いだ。
 そしてロブ張りのシャウトで其の己が作り出した偉業をライカに示した!

「此れが畏るべき天才! 我輩ことDr.ウェストが創り出した魔導兵装~~~~~~~~~~! 其れはっ! レーザーよりも迅く! 核よりも轟く! そして! 其の輝きは千の太陽よりも眩し~~~~いっ! 
P・A・I・N・E・K・I・L・L・E・R~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!! ペインキラーなのであーる!」

 ――神さまぁ~~~ライカは確かに咎人です!ですが、此の仕打ちはあんまりです~ぅう~~!!
 悪夢再び。
 ライカの目の前に示された異形にして威容。
 其れは白と白銀(クローム)に彩られた如何見てもバイクであった。

「ドクター此れって真逆叉?」
「心配する必要など無いのであ~るよ、メタトロン! 前のハンティングホラーと違って此のペインキラーはスピードと機動力はハンティングホラーよりも上! まあ、其の分パワーは若干劣るのであるが――中に使ってある魔導書は貴様と親和性の高い魔導書の断章を三冊並列励起して使ってあるからして。天才は二度とは失敗を引き起こさないのであ~るよ!」

 些か心配では或るのだけれど、ドクターが言ってる事には嘘は無い。
 確かに性格には物凄く問題が在るのだけれど、其れを差し引いたとしても当世一の天才科学者で有る事には間違いは無い……マッドで向こう岸では在るけれど。

「で……ドクター? 使っている魔導書って?」
「クリタヌスの告白録、光輝の書、そして――ロガエスの書であるよ、ロガエスの書を中心として後の二冊の断章を補助に回してるのである。ナコト写本の二の舞いでは困るのであるからして」

 確かに驚きである、邪神の行った行為と其れを水中深くに追い遣った記述があるクリタヌスの告白録、ゾハールとも呼ばれる20冊からなるカバラの大冊、光輝の書、そしてジョン・ディー博士が天使からの啓示を書き記したとされ、其の実ネクロノミコンの原本とも云われているロガエスの書……
 確かに親和性は有りそうな気がする。

「征くなら使うが良いのである、何せライバルが居ないと張り合いが出ないのであるからな。だから、首に縄を付けてでも大十字九郎を引っ張ってくるのであるよ。」

 其れは暗に生きて還って来いと云うウェストの優しさ。

「そうだロボ! ダーリンを必ず連れて還って来るロボよ!」

「ええ、必ず帰って来るわね、ドクター、有り難う御座います」

「何、我輩の様な天才と違って凡人は努力しなければ為らないからな。其の努力が報われないのが我輩は嫌なだけであるよ。では、行って来るが良いであるよ!」

 ライカは軽く御辞儀をするとペインキラーに跨った。
 スロットルを軽く捻る、体に闘志が漲って来るのが解る、前の様に忌まわしい喜びに捉われる事も無い。
 そして虚空をペインキラーは駈ける、正純な主を得て虚空にカンツォーネの様なエグゾーストノートを響かせ、白い光輝の翼を拡げながら。

「九郎ちゃん! 待っていて――今征くから!」

 ライカの心には怖れも後悔も無い。
 有るのは唯々九郎への大きな想いだけ。
 其れだけを抱いてライカはヨグソトースの門を駆け抜けた。

2009.09.20 Sun l 未分類 l COM(0) TB(0) l top ▲
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